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聞き取りでは約90%減。余力は増えたのか

匿名企業で、毎月のインターネット調査をAIを組み込んだRPAで自動化した。関係者への聞き取りでは作業時間が約90%減った一方、数か月後に新しい仕事へ使われたと説明できたのは、減ったと推定された時間の10〜20%だった。実際に空いた時間と、その使い道をどう測るかを考えます。

QUICK ANSWER / 3 LINES

まず、どういうことなのか

  1. WHAT / 結論

    匿名企業の一業務では、聞き取りで作業時間が約90%減ったと推定された。ただし、この数値だけでは横展開や財務効果を認められない。

  2. WHY / 理由

    二つの割合は基準にしている時間が違う。ログ、案件数、品質、確認・修正・保守時間も未確認で、この数値だけでは利益や因果関係を判断できない。

  3. ACTION / 実務

    現時点で承認できるのは測定段階まで。まず工程時間と品質、確認・修正・保守を確かめ、その後に空いた時間の使い道を追う。

読みたい章へ7章 · 要点

同じ自動化をほかの業務へ広げるかを決める会議では、約90%の時間削減は強い材料に見えます。けれども、減ったと推定された工程時間と、実際にほかの仕事へ回せる時間と、追跡ヒアリングで新しい仕事に使われたと説明できた時間は同じものではありません。

本稿では、匿名企業の月次インターネット調査について行った事後の聞き取りを手掛かりに、基準も確認時期も違う二つの割合を分け、行き先が分からなかった時間を次にどう測るかを整理します。数値はログによる実測ではなく、一つの業務についての概算で、ヒアリング回答者数も確認できていません。

「約90%減」だけで横展開を決めてよいのか

対象は、とある企業で毎月発生していたインターネット調査業務です。月によって2〜3名程度が関わり、AIを組み込んだRPAの導入後、関係者への聞き取りでは、この業務にかけていた時間が約90%減ったと推定されました。ログや成果物を使って詳しく確かめる価値のある報告ですが、それだけで次の投資を決めることはできません。

導入2〜3か月後と説明された追跡ヒアリングでは、減ったと推定された時間のうち、新しい業務や追加生産に使われたと説明できたのは10〜20%程度でした。ただし、この期間を導入開始、運用開始、安定稼働のどこから数えたかは確認できていません。

ここで必要なのは、約90%という聞き取りを否定することでも、残りを無駄と決めつけることでもありません。工程時間が減った可能性については次の検証に進めますが、品質と見落としていた作業を確かめるまでは、成功と判断したり、ほかの業務へ広げたりする根拠にはできません。

部門長や業務改革責任者が決めるべきなのは、自動化が動いたかではなく、同じ仕組みをほかの業務へ広げる条件がそろったかです。現状では品質と見落としていた作業も分からないため、継続、拡大、人員計画の変更、財務効果の計上には、この数値とは別の証拠が要ります。

約90%と10〜20%は、基準にしている時間が違う

約90%は、導入前にこの業務へかけていた時間を基準に、導入後の時間がどれだけ減ったかを後から聞き取った推定値です。一方の10〜20%は、減ったと推定された時間を基準に、その後、新しい業務や追加生産に使われたと説明できた割合です。前者は工程時間、後者は空いたと推定された時間を基準にしているため、同じ棒グラフに並べて成功率のように比べることはできません。

また、2〜3名はこの業務に関わった人数であり、ヒアリングの回答者数や常勤換算人数ではありません。約90%がどの基準月、工程範囲、案件量を含むのか、10〜20%という幅が回答者による違いなのか、月ごとの違いなのか、単なる概算の幅なのかも確定できません。したがって二つの割合を掛け合わせ、元の時間の何%が価値になったと計算することも避けます。

このケースで確認できるのは、関係者の聞き取りでは対象工程の時間が大きく減ったと推定されたことと、2〜3か月後に新しい仕事に使われたと説明できた時間は一部に限られたことまでです。AIを組み込んだRPAだけによる効果、生産性の向上率、利益率、他社でも同じ結果になるかどうかは分かりません。

MEASUREMENT BOUNDARY / 01

約90%と10〜20%は、そのまま比べられない

CATALYSPHERE / AUTHORED MODEL

約90%の分母

減ったと推定した工程時間 ÷ 導入前の工程時間(推定)後から行った聞き取りによる概算です。基準期間、案件数、品質の条件、計算方法は確認できていません。

10〜20%の分母

新しい仕事に使われたと説明できた時間 ÷ 減ったと推定された時間導入2〜3か月後の追跡ヒアリングによる概算で、一般に使われている標準指標ではありません。

純解放時間の測り方

同じ業務量・品質での導入前人時間 − 導入後の総人時間導入後の総人時間には、元工程に加え、確認、修正、例外、再実行、保守、障害復旧を含めます。
01

約90%が表すもの

導入前工程時間が分母

約90%はこの工程内の減少幅についての聞き取りです。

02

10〜20%が表すもの

減ったと推定された時間が分母

10〜20%は、新しい仕事に使われたと説明できた割合です。

03

してはいけない計算

二つを掛けた値を実績にしない

同じ対象、期間、計算の条件かを確認できないため、二つを掛け合わせません。

Catalysphereが二つの割合の基準を整理した図です。今回の聞き取りで得た数値をログで再計算したものではありません。二つを掛けても、実績値や利益率にはなりません。
  • 約90%:導入前の対象業務時間に対する、聞き取りに基づく減少幅の推定値
  • 10〜20%:減ったと推定された時間のうち、新しい仕事に使われたと説明できた範囲
  • 未確認:基準期間、案件数、品質、回答者数、確認・修正・例外・保守の時間

使い道が分からない時間を「無駄」と決めつけない

追跡ヒアリングで使い道を説明できなかった残りの時間は、消えた時間でも、遊休時間でも、価値のない時間でもありません。減ったと見積もられた数分が一日の中に散らばり、別の仕事へ回せるまとまった時間にならなかった可能性があります。追加で行う仕事、割り当てる権限、必要なスキル、予算、後工程の処理能力が不足していた可能性もあります。

新しい業務や追加生産とは別の用途に使われていた可能性もあります。繁忙時に備える余裕、納期の安定、残業の回避、休憩、既存業務の品質改善、未処理案件の消化、突発対応への備えは、「新規業務・追加生産」には数えられないかもしれません。反対に、AI出力の確認や修正、例外処理、RPA保守、障害復旧、検索条件の更新が別の人へ移り、見かけ上の削減を大きくしていた可能性もあります。

この段階で、担当者が時間を活用しなかった、あるいは管理職が仕事を振り直さなかったと決めつけるのは早計です。追跡ヒアリングで説明できた10〜20%は、おおよその範囲にすぎず、記憶のずれや、どこまでを集計対象にしたかによって過大にも過小にもなり得ます。残りの使い道が分からないからといって、失敗だったと決めつけてはいけません。

純解放時間を測り、空いた時間の行き先を分ける

まず、AI出力の確認・修正、例外対応、再実行、RPA保守など、見落としていた作業時間を導入後の総人時間に足し戻します。これらは空いた時間の使い道ではなく、導入後も残った人の作業です。同じ業務量と品質条件で導入前後を比べ、ここまで差し引いても残る時間を純解放時間とします。行き先を調べるのは、その後です。

純解放時間の行き先は三つに分けます。第一は、新しい業務や追加生産に使われた時間です。今回確認できたのはヒアリング上の説明までで、次回は担当者、時間、成果物とも照らし合わせます。第二は、繁忙時の対応や納期までの余裕、既存業務の品質改善など、記録で説明できた別の使い道です。第三は、聞き取りでもログでも使い道を説明できない時間です。

時間がまとまっていたか、数分ずつ細切れだったかは、行き先とは別に記録します。新しい仕事に使った五分間もあれば、行き先が分からない一時間もあるためです。次の月次業務では、行き先には成果物や記録を、時間のまとまり方には一回の長さと発生時点を、行き先不明には次に聞くこと、残すログ、確認する担当者を決めます。

  • 純解放時間:確認、修正、例外、再実行、保守を導入後の作業時間に足し戻す
  • 行き先:新しい仕事、その他の確認できた使い道、行き先不明に分ける
  • 時間のまとまり方:別の仕事へ回せるまとまりか、細切れかを別欄で記録する
  • 行き先不明:分からないまま残し、次回の質問、ログ、担当者を決める

まず30日後に工程を、90日後に空いた時間を確かめる

一つの進め方として、導入直後と数か月後で確かめることを変えます。最初の30日程度は、測る業務の範囲を導入前後でそろえ、処理件数、成果物数、作業時間、正確性、網羅性、再作業、納期を記録します。AI出力の確認・修正、再実行、例外対応、RPA保守、障害復旧、検索条件の更新も、導入後に残った人の作業として同じ業務IDに結びます。

90日程度では、空いた時間の使い道を確かめます。誰の何時間が、どの業務、成果物、処理量へ移ったのか。行き先を確認できない場合は、需要や権限、スキルの不足、時間が細切れだったこと、後工程の制約、繁忙時への備え、測定漏れのどれに当たるかを記録します。30日後と90日後は、このケースで欠けていた観測を補うための一例であり、効果が確かめられた期間ではありません。業務の周期や成果が表れるまでの時間に合わせ、導入前に決め直します。

聞き取りも続けます。現場の負担感や、空いた時間の使い道は、ログだけでは分からないためです。ただし、質問、回答者、実施日、計算方法を保存し、可能な範囲で作業ログ、案件管理、成果物台帳と照らし合わせます。聞き取りによる概算と、ログによる継続的な測定を分けて記録するのが目的です。

余力追跡票には、分からないことも残す

余力追跡票は二段に分けます。第一段では、対象業務ID、基準期間、案件数、導入前後の作業時間、見落としていた作業を記録し、純解放時間を計算します。第二段では、その時間の行き先を新しい仕事、その他の確認できた使い道、行き先不明に分け、別欄でまとまった時間か細切れかを記録します。各欄には、聞き取りによる推定か、記録で確かめた値か、誰が確認したか、次にいつ見直すかを残します。

この票だけで結論を出すのではなく、判断ごとに使う情報を分けます。工程時間、品質、見落としていた作業は継続するかどうかの判断に使い、空いた時間の使い道、需要、成果物は拡大するかどうかの判断に使います。品質の悪化、例外、保守負荷は自動化する範囲を見直す材料にし、使い道がない場合は横展開を保留します。継続、拡大、縮小、停止の基準は、対象業務の影響に応じて別に承認します。

追跡票の役割は、もっともらしい総合点をつくることではありません。約90%という目を引く数字の横に、まだ分からない品質、見落としていた作業、空いた時間の使い道を残し、次に何を誰が確かめるかを決めるためのものです。

CAPACITY TRACKER / 02

純解放時間を測るには

CATALYSPHERE / AUTHORED MODEL

純解放時間の計算

同じ業務量・品質での導入前人時間 − 導入後の総人時間導入後の総人時間には、確認、修正、例外、再実行、保守、障害復旧を含めます。

純解放時間の行き先

純解放時間 = 新しい仕事に使った時間 + その他の確認できた使い道 + 行き先不明まとまった時間か細切れかは行き先と重なり得るため、足し算へ入れず別欄に記録します。
01

測定の基準

業務ID・期間・案件数・導入前後の作業時間

測定担当者が、ヒアリング値とログ値を分けて記録します。

02

足し戻す作業

確認・修正・例外・再実行・保守

運用責任者が、実施者、時間、根拠、確度を残します。

03

行き先

新しい仕事・その他の確認できた使い道・行き先不明

業務責任者が、担当者、成果物、次に確かめることを結びます。

04

時間のまとまり方

別の仕事へ回せるまとまり・細切れ

測定担当者が、一回の長さと発生時点を行き先とは別に記録します。

05

品質

正確性・網羅性・再作業・納期

品質責任者が、導入前に決めた基準を満たしたかを確認します。

06

判断

継続・拡大・縮小・停止

決裁者が、30日後と90日後に何を確認するかを分け、次回確認日を決めます。

Catalysphereが考えた余力追跡票の例です。この会社で実際に使い、効果を確かめた帳票ではありません。空欄をゼロで埋めず、ヒアリング推定、記録で確認できた値、未確認を分けます。
  • 記録する値:件数、時間、品質、成果、支出を混ぜない
  • 測り方:ヒアリング、作業ログ、案件台帳、財務記録を区別する
  • 確からしさ:ヒアリング推定、記録で確認、未確認を分ける
  • 担当者:測定、改善、承認を一人にまとめず、役割を分ける
  • 次回確認日:工程が安定したかと、空いた時間が使われたかを別の日に確認する

時間削減だけでは、横展開を決めない

このケースは、AIを組み込んだRPAが利益を生まなかったことを証明しません。逆に、約90%の工程時間削減が、そのまま90%の生産性向上や利益になったことも証明しません。分かるのは、工程時間が減った後に何が起きたのか追えていない部分があり、空いた時間の使い道があらかじめ決まっていたかどうかも確認できなかったことです。

次の案件では、自動化率だけでなく、品質、見落としていた作業、別の仕事へ回せるまとまった時間、空いた時間を振り向ける仕事、成果物、次回確認日を導入前に決めます。一例として、30日後に工程と品質の基準を満たしたかを確認し、90日後に使い道を説明できた時間だけを次の判断材料にします。説明できなかった時間は、失敗にも利益にも数えず、次に測る対象として残します。

このケースでは、約90%減という聞き取りだけを根拠に、横展開、人員計画の変更、財務効果の計上を承認しません。承認できるのは、次の月次業務で純解放時間と品質を測り、その後に時間の行き先を追う段階までです。その結果をそろえてから、別の業務へ広げるかを判断します。